道後温泉塩素問題に対する弊社の意見
(2004年3月7日)



道後温泉(松山市営の「道後温泉本館」と「椿の湯」のことを略して表記。以下同じ)の塩素注入問題をレジオネラ菌対策に携わっている者としての意見を述べさせていただきたいと思います。

 まず、レジオネラ菌に対する認識不足からくる指摘が散見されます。「3000年の歴史の中で発症例がない」などとの意見がありますが、対処を間違えば死亡にまで至る菌で、1970年代後半に米国において分かってきた菌(今より20数年前に発見された菌、国内では1981年にレジオネラ肺炎の第1例を報告)であり、以前では風邪や肺炎という診断で見過ごされてきたと思えるものです。
 近年、MRSA・エイズ・SARS・狂牛病・鯉ヘルペス・鳥インフルエンザ・レジオネラ菌などなど人類は細菌やウィルスの逆襲と呼ばれる時代に突入しています。レジオネラ菌は一昨年7月に宮崎県日向市において多数の死亡者・傷害者を発生させる集団感染事故があり、その後、厚生労働省や県当局、保健所と共に浴場施設業者が一丸となって取り組みその対策を取ってまいりましたが、レジオネラ菌やレジオネラ症についてまだまだ解明されていない部分が多く、全国レベルでの話としてレジオネラ菌の発生・事故も続発し、掛け流し式温泉でもレジオネラ菌の発生報告が次々となされています。また、源泉汚染発生という深刻な状況(特に対処方法が難しい)も報告されています。今までの検査で汚染されていなかったにもかかわらず、直近の検査で汚染されたとの報告も多くあります。
 レジオネラ菌がいろいろな耐性を持ち強くなってきていると言えそうです。レジオネラ菌対策を安易に考えないでいただきたい。道後温泉においても今までに汚染されていなかったから今後も汚染されないだろうという考えは通用しません。道後温泉のような掛け流し式温泉では浴槽を掃除さえしていればレジオネラ菌問題はないとは決して言えません。掛け流し式温泉で源泉の温度が60度以上あればレジオネラ菌が生息しにくい条件になりますので問題は起こりにくいと言えますが、道後温泉の場合にはそのような温度ではないと聞いています。掛け流し式温泉でも、特に、地中の奥の源泉から浴槽までにおいて密閉性が保たれ、レジオネラ菌が飛び込んで入るところがないのであれば良いのですが、道後温泉の場合には17の源泉を4つの分湯場に集めて使用・供給しているという、聞いた限りでは、地中の奥の源泉から浴槽までの間において密閉性が保たれておらず、レジオネラ菌が飛び込んで入る可能性があるように考えます。
 これらは専門家である松山市保健所の方達と現場担当者の方達が現場を知った上での検討を重ね、塩素を入れる決定がなされたことと考えます。実際の話として施設の設備や状況は現場現場によって異なり、専門家の目でもって、一つ一つ確認して対処せねばならないことが多くあります。すなわち、道後温泉は現場を知っている方々の立場として何らかの消毒をしないとレジオネラ菌汚染が発生する可能性がある施設の設備や状況であると、結論を出したのだと考えます。薬害エイズ事件では行政の不作為ということへの責任が追及されました。レジオネラ菌自体の実態が掌握されていない以上、現在取りうる最善の対策を模索していることを認識しておかねばなりません。行政が真剣に検討をせずに結論を安易に出して塩素注入を始めたというような批判は全くあたりません。行政の人たちともレジオネラ菌汚染の対処方法について何度も情報交換をしてきていますが、今回の道後温泉の塩素注入は苦渋の選択をした結果だと考えます。
 一方、塩素消毒についてはご存知のようにいろいろな意見が出てくるところです。現在安全性に問題が少なく、液体であるために注入の管理もしやすくコストも安いという理由で多くの施設で利用され、道後温泉でも採用されています次亜塩素(アルカリ性)での消毒です。しかし、この次亜塩素は道後温泉のようなアルカリ性泉質の温泉の場合には消毒としては非常に効きにくく、一般の人になじみのある市販品の漂白剤やカビ落とし剤と同じ臭いを強く発生させ、皮膚のデリケートな人は皮膚障害を起す事があるということが言えます。泉質の変化の問題はデータ上の問題ではなく、実際に入浴客の体感上の・経験上の問題が一番です。入浴客が違和感を覚えるのなら、それは好ましくないことです。入浴客の皮膚に障害が出るならそれは好ましくないことです。それらによって入浴客が減ることは避けねばならないことでしょう。また、レジオネラ菌はバイオフィルム(生物膜。細菌・真菌・藻等が入り込んで複合体を作りねばねばしたゲル状のものを形成し物の表面に付いた状態のものをいいます。通常、細菌等は群となってバイオフィルムを作り出しながら成長していきます。バイオフィルム内では、細菌等の増殖に良い環境になり、消毒剤より自分達を守るバリアーの役割を果たします。通常の自然界においてその形成が見られます。)に守られていて塩素消毒のみではレジオネラ菌汚染を防げない例も次々と報告されています。そこで、次亜塩素以外の方法でやって欲しいという意見は当然の意見だと考えます。一方で、塩素でも臭いの少ない塩素剤(酸性系塩素剤)もあります。入浴客の体感上の・経験上の問題は臭いに敏感に反応しているところが大きいとも思えます。臭いの少ない塩素剤で少量を常時でなく定期的に投入する方法も良いのではないでしょうか。源泉より始まり貯留タンクや配管や浴槽までのすべてにバイオフィルムを形成させないでなおかつ安全であることを考えると二酸化塩素を注入するのも良いと考えます。レジオネラ菌に施設が汚染されてしまってから対処すると予防でするコストの何十倍も必要になります。予防が適正ですと最終的にはコストも安く済みます。
 もう一つは法的な問題です。昨年10月に改正された条例が施行されているのですから、決められた条例は守らなければならないのは当然のことです。条例が通るまでに議論されていて良かった問題です。現段階として、もしそれが好ましくないのであるならば、条例を改正すべきことです。ただし、この条例において、どうしても絶対に塩素による消毒でなければならないということではなく「他の適切な衛生措置を講ずるときは、この限りでない」という表現があり、この条例の適用面での問題として、塩素消毒にこだわる必要はないと考えます。
 最後は責任の問題です。もし仮に、塩素を止める事により、道後温泉でレジオネラ菌汚染が発生し、被害に遭われた人が出た場合には誰が責任を負うのでしょうか?それによって、道後温泉に来る入浴客や松山に来る観光客が激減したら誰が責任を負うのでしょうか?塩素を止めろといった人が責任を負うのでしょうか?テレビのワイドショーなどにおいてこれらの知識のない方が単に思いつきや感情的に塩素を加えるのは温泉でないなどと批判することは、世論を間違った方向に導く可能性があるので謹んで欲しいことと考えます。まだまだ、未解明なレジオネラ菌に対する対策としてベストな方法が分かっていない以上、ベターな方法で対処するしかないという現実を踏まえて、レジオネラ菌に汚染されないために予防的な消毒方法を検討する必要があると考えます。
  2004年3月7日
  有限会社 菊昌    代表取締役 菊原 昌作